【偽書】虹メイル・アン 〔第七話〕青空と海よりの使者の帰還 13

「貴様。余計な事は言うなよ」

「余計な事など何も」

「まあいい。そろそろ例の施設の側を通過する。油断するなよ。気をつけろ。奴らにあそこに近付かれては破滅だからな」

「わかっている」

上司と部下のは手短な会話を交わして座席に戻って来た。

「もうじき我が国最大級の湖に近づきます。その前に湖へ向う事が出来る駅に一時停車します。その際、例の列車が反対のホームに停車しますので、じっくりご堪能下さい。勿論写真撮影もご自由に。互いに停車している時間は二分程ですが十分に写真は撮影可能でしょう」

「ありがとう。鉄道好きにはワクワクが止まらないよ」

「お子ちゃまね。翔太郎は」

リンダが僕を茶化す。

「あまりの古さに失望しなければ良いのですが」

男の言葉に隣に座る女が困った顔をする。

先程の話からすれば、列車の新旧や美汚ばかりを気にするのが忍びないんだろうな。

「長年人々を運んで来た、導入当時は最新鋭の列車ですよ。古さは輝かしいその歴史じゃあありませんか」

「そうですかね」

残念だけど男の方にはどうやら皮肉と取られたらしい。

「既に遠方に湖が見え隠れしていますね。あれは相当な大きさでしょう」

アンが僕に水を向けてくれた。

そう。僕等の真の目的は…。

「あの湖は古くは生活用水として。現在は隣接する工場群の貴重な用水として活用されております。勿論排水などは直接は流し込んだりしないよう、水質維持に務めており、今でも飲用は無理でも衣服の選択などなら十分可能な水質を誇ります」

「自然保持に意識されているんですね」

「どうしても後進国は環境破壊が進んでいると思われがちですが、我が国家に関してはそれは当てはまりません」

まるで軍事国家ばかりに国力を注いでいるのでは無いと言いたげに、男は語る。

「さあ、直に駅に着きます。カメラの支度は宜しいですか?ミスター翔太郎」

男の国自慢に呆れたのか、女の方が話題を変える。

それを苦々しそうな目で見る男の役人。

あまり仲良くないのだろうか?どうもこの二人は仕事上のパートナーとしてはぎくしゃくしているものを感じるなあ。

写真はアン達の瞳で見た物を記録した方が解像度が高いのだが、あくまでカメラを使う事で列車趣味に見えるだろうとカメラを持参したんだよね。リンダの手ほどきを受けたから、それらしくは見えるかな?

「かなり古いカメラをお持ちですが、あなたの国ならもっといいものが簡単に手に入るでしょう」

「そうですが、これはお父さんの形見なんで」

偽書】虹メイル・アン 〔第七話〕青空と海よりの使者の帰還 12

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